冒頭句

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【 解説・3 】
《前段一》(1、2/2

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○そも、この世界の始まりは一切が混ざり合った状態だったが、いつしか重いモノは降下して溜まってゆき、面(カ)となり、上には何も無い澄んだ空間(キ)が広がっていた。ただ、天空の神(キツキ)、下面の神(カツキ)は未だ出現していない。

命を育む物質も無く、エネルギーの兆しも無い。そんな世界を誰が知り得ようか。

]ソレ。そも。発語の辞。書き出しの言葉。(棚字)

◇「夫」の字の位置は上句よりも更に上に据えられています。この場所に置く字を、当時の人がどの様に呼んでいたのか分からない。よって、ここでは仮に「棚字」と名付けておくことにします。

混元]◯混/マジコジ。撹拌。また撹拌された状態。◯元/ハヅメ。はじめ。この世の始め、最初の姿。

◇「アツ・オツ」という言葉があります。往復・片道、全部・半分、遠・近、或いはアッチコッチ、右往左往、などの様に色々の意味と用途がある言葉です。

これをもっと強めて、撹拌や渾沌、濁混、またカオス状態を表わす場合それぞれに、強める接頭辞のムやクが乗って、「アツ、オツ」と表現されます。ムとアが拗合してア→マ、クとオがオ→コと直音になり、マツ・コツの音になります。

 ム・アツ →アツ →マツ。
 ク・オツ →オツ →コツ。

マツコツから転化して、マヅコヅ、マゼコゼ、マジェコジェ、マルコル、マロカレ、など色々な音になる。ここから更に転じてムチャクチャ、メチャクチャ、といった音で今もなお使われ続けている語。マジエ(交え)、マゼ・ル(混る)、マザリ(雑り)などの音も同源です。

欧州圏語に、マツコツ→ミツクス(mix)と転化が可能な語がありますね。これも「混ぜる」の意ですが、日本語との関連事情については不明。
カオスという語も、アツ・オツの音がチラつきますが、現段階では何とも言えません。

既凝]◯既/スンデに。すでに。はや。◯凝/シコリ。シ・コリ。為こり。(シは行動や現象を表わす接頭辞。コリは物体化)物質が出来る意。ここでは海(液体)をいう。陸地はまだ出来ていない。何も無かった状態から“水”という物質が形作られること。

◇固体はコォリとコを伸ばして発音します。こおり(氷)は水が固体になった物。肩こり、にこごり、などのコリも元はコォリと発音しました。また、固体化状態をカツ・マリ(塊り)といい、とてつもなく硬くなった様をコォリ・カツマリ(凝り固まり)という。

ずっと後に生まれる初の陸地オノゴロシマは、二神が潮に矛を指し下し「許々袁々呂々邇、書鳴而」=(コヲロ コヲロに、撹き鳴らして)作られるが、この表現は混ぜる音やその様を表わすと同時に、固める(固体となる)の意も含まれるのでしょう。

氣象]◯気/キツキ。いすき。空透。ここでは上に広がる天空(気体=無質)をいう。◯象/カツキ。かたち。物体。ここでは下面に出来た海(液体=物質)を指す。

◇空は何も無いのでキといい、海は物質なのでカの音を用います。意識体もキというので、キツキは上空の神(キのキ=キを司るモノ)、カツキは下面の神(カのキ=カを司るモノ)、という意味になります。

未效]◯未/いまだ~あらず。◯效/=効。顕われ。しるし。

◇濁混とした空間の中の物質は徐々に移動を始めていましたが、今は既に分離され天と地はそれぞれの空間を作っていた。後にこれを司る神の名はキツキ・カツキという。元は一体だが天地が完全に分かれた時、天空はアキツキ(アキ・のモノ)、下に広がる面はアカツキ(アカ・のモノ)という神になり、それぞれの受け持ちとなる。

しかし、この神が顕われるのはずっと先の事であって、今この段階ではその影すら無い。よって「気(キツキ)・象(カツキ)、未だ效れず」となります。

無名]◯無/ナキ。ない。◯名/ナァと一拍音で発音する。活気物質。◇菜や魚をナというが、この音の原意は食材や食料そのモノのことではなく、命を稼動させるタメの物質全般をいう。その中の一つに食物も含まれる、という程度のことです。

無為]◯無/ナキ。◯為/タメ。生命育成の根源をいう。

◇天空と下面の間にキが充満してゆく。この空間こそがあらゆる生命体を育み、その命を守るエネルギーの根源なのです。

生きる上で欠くべからざるモノ、これをタメ・ツ・キ、タメ・ツ・モン(モンはキから転化した音、モノ。)といいます。ここにタベ・モノ(食べ物)という言葉の語源が見えます。

祝詞(天都詔詞太詔詞)の中に、神職の人が唱える「ト・ホ・カミ・ ヱミ・タメ」という言葉があります。トは地、ホは天、このトとホの間にタメ(生存空間)が有り、このタメの中でカミとヱミ(共に人)が生かされている。古代神道ではそう考えます。ただし、近世になると既にその意味は分からなくなっており、この唱え言も呪文の扱いとなってしまいました。

誰知]◯誰/タレ・ソ。不特定の者。◯知/シラム。知り得ようか。否定の辞。本来は不知と書くべき所、文字揃えの都合で不の字を省く。

◇人を表わす語の一つにアレ(者)というのがあります。これを基にして幾つかの音を接頭辞として乗せて別の言葉を作ってみましょう。

ク・アレ→アレ(カレ=彼)、ウ・アレ→アレ(ワレ=我)、ツ・アレ→アレ(タレ=誰)といった形の言葉ができます。

よって、カレのカ、ワレのワ、タレのタ、これらの音は厳密にいうと拗音です。また、ヤツコ・アレ(臣の者)がヤツガレ(自己の謙称)になります。

其形]◯其/ソノ。ソレ。◯形/ス・カタ。すがた。素のカタチ。この世。世界。

 

 

《記》序の「冒頭句」について考えてみました。本日はここまで。有り難う御座いました。

・ヲグナ・