【 解説・4 】
《前段二/ⅰ》(1・2/16行)
◯然して、天と地(空と海)に初めて分かれたのち、顕れた三神がその後、ムツキの始祖となる。
始めは霊気として一体であった。この生命を司る神・キツキが、陽と陰(男女)一対に分離し、この二つのキツキが交合して、この世を形作る一切のキツキを産んでゆく祖となります。
[然]シカシテ。その状〔サマ〕にして。(棚字)◇分解すると、シ・カ・シテになる。語幹はカ(状態)です。「か・ばかり」「か・ように」などのカ。◇「然」の字は序の中で棚字として四個使われていますが、読み方はそれぞれ異なります。
[乾坤]ケンコン。あめつち。天地、陰陽、男女など、元は一個だったものが一対に分〔ワカ〕れる。ここでは上に広がる何も無い空間(天)と、下に広がる平面(海)の意。また、生き物も雌雄の別が成る。
[初分]◯初/ハヂメ。はじめて。◯分/ワカチ。ワカツ。ワケ。もとの音はゥアキ・ツツ、これがワカチになる。分離。
◇あらゆるモノが混ざり合った状態で、全体として一つの空間だったのが、初めて分離することを言う。後に成る神々の多くが男女一対に分かれるのも、此の二気分離より始まっている。
[參神]ミツ・キ。參は三であり和語ではミツです。神の字はキの音に充てる。
◇三柱の神(天之御中主神、高御產巢日神、神產巢日神)は、《記》に登場する神名人名、凡そ千四百の中で最初に出てくる生命体の名。
天之御中主神は宇宙神であり、王家(天皇)の祖神。高御產巢日神は王を助ける筆頭家来(大毘古、大臣)の祖神。神產巢日神は主に戦闘員の頭領(将軍)の祖神。是らの位置付けでもあります。
[作]ナリツ。成り。[造化之首]ムツキ コレ ハヂメ。造物主。原型を造ったモノ。◯造化/ムツキ。ンミツキ。ム(ンミ)は産み「出現」の意、ツキは「のモノ」をいう。よって、ムツキは「出現させるモノ」を表わす総称です。
◇《記》本文では産巣日(ムスキまたムスヒ)の字が充てられ、書紀では産霊(ムツキ)の字が使われる。産霊はツの音が入り「産ツ霊」ですが、ツの表記は省略される。
造化という語は中世や近代に於いても「造化の妙」「造化の奇を弄するも」「造化の神の戯れ」「造化より与えられし」「造化の原則」などの表現が見える。“自然界の営み”といった解釈がなされている様だが、この受け止め方は間違っていないでしょう。
◇或る物体の中から別の物体が出てくるのを「ンムィ」(ンミ)という。語幹ミ(ムィ)に予唸音ンが付いて発音される音。ムスヒ(産巣日=造る者)は、ンムィ・ツキ(産み・のモノ)というのが初期の語音と考えます。
また、ンムィは出現、アレは存在(在る、有る)の意。ンムィ・アレがウマレ(生まれ)という語になります。
▽ちなみに。或る物体が別の物体を内に取り込むのは、頭にヌの音が乗った「ヌムィ」(ノミ)という音になる。
これらウミ(生み)やノミ(呑み)は本来語幹であった音・ミ(ムィ)が、ウミ→ウム、ノミ→ノム、などと変活の対象となり、付属音であった予唸音ンやヌから転化したウやノが主音の扱いになる。
◯之/コレ。之の字は助詞「の」を表わす文字としてしばしば使われるが、「コレ、何々」いう言い方をする時にも使う。むしろ助詞の「の」は表記を省略されることが多い。よって、此処では敢えて「コレ」を表わす文字とする。
◯首/ハヂメ。はじめ。首の字は、「塊り」や「首領」を表わすカツラ、カシラ、カブラ、といった音の他、「最初」を意味するカツメ、ハヂメ(初)、ハジメ(始)、の音でも使われる。ここでは初の神々の意なのでハヂメと読んでおきます。
◇造化之首とは最初に出現した神であり、同時に「神を産む最初の神」また「基本型(プロトタイプ)の設計者」と解釈できる。
[陰陽]インヨウ。またオンミョウ。根源生命としての二気。◯陰/ツキツキ。地。雌。◯陽/アキツキ。天。雄。
◇キツキとは生命体(また、そう考えられるモノ)を表わす総称です。これの頭にアが乗りア・キツキ、ツが乗りツ・キツキという語が使われる。この音から、それぞれ頭の二音のみに略して、陽をアキ、陰をツキ、と呼びます。また後に、日月の神が顕れると太陽(日)はアキ、太陰(月)はツキ、になります。
[斯開]カクして・ヒラキ。◯斯/カクして。ココに。あるいはシ(行為を表わす接頭辞)の音に充てたものか。◯開/ヒラキ。サキ。わける。分離。
◇書紀では「乾坤之道相参而化 所以成此男女」=(乾坤が交じり合って、それで男神女神が出来た)というのだが、この解釈はおかしい。始め一つだったモノが二つ(乾坤)に分かれたのであり、これに伴って神も男女が出来たのである。
[二靈]フタツキ。伊邪那岐・伊邪那美。◇この二神は本来、実体の無い霊気としての生命体でした。しかし、三次元世界で活動する為には物理的肉体が必要であり、先ずこれを作り乗り込(宿り)ます。
ここに男女一対の実存神が初めて生まれる。この二神が、万物を産む役割を担う祖神となります。
尚、《記》本文ではこの乗り物(肉体)の形状や乗り心地について、またこれをどの様に使って生命体を作るかなど、二神の会話が掲載されています。
[爲]ナセ・リ。なる。[群品]アラユル キ。全ての神。◯群/アラ ヨロヅ。ヨリツ(寄りつ)集まり。◯品/キ。もの。
◇アラはアツから転じた音で、大や甚の意を持つ副詞ですが、アラの他にアハ、オホ、アヲ、ヤヲ、などの音にもなる。
荒物屋はアラ・ヨロヅ・モノ屋(日用雑貨が何でも置いてる店)、八百屋はヤヲ・ヨロヅ・モノ屋(色々な食材を置いている店)の意の言葉です。
◇太古語で「全てのモノ」を指す語アラ・ヨロヅ・キは、次の様に意味付けできます。
①アラユル・キ(群・品)の音(表記)になる。群は「とても多い」の意。品の字はシナやホンの読みがあるが、漢音のヒンも含めて原音はキである。
②アラを省いてヨロヅ・キ(万・物)の音(表記)で表わされる。モノという音もまた原音はキ。
よって、ヨロヅ・キに充てる表記文字は違っても群品と万物は同義語である。文選などでは万物を万民の意としても使うが、ミン(民)の音もまた元はキです。
▽ちなみに。《記》本文の、天照大御神の石屋戸籠りなどにある八百萬神(ヤヲヨロヅキ)とは「王が住む集落の全ての人」の意であり「800万柱の神様」では有りません。ここでの神の字はキ(人)の音に充てる。
[之祖]コレ ヲヤ。◯之/コレ。◯祖/ヲヤ。ウミツ・カヤツキ。ウミは出現、カヤツキは製造者。カツキのカの音が膨張してカヤ(クァヤ)になり、クァが→クォ→ウォ(ヲ)、ツキがフキ→ブト(ビト)と転じ、カヤツキ→ヲヤビトという語になる。
ここにオヤ(親)という語音の始まりがある。ンミツキ・カヤツキがウミツ・ヲヤビト(産みの親人)、これを略してウミノ・ヲヤ、またはンミ・ツキ(ンム・スヒ=産巣日)ともいう。
◇無から有を作り出すキ(モノ)、また始まりとなったキ、これらをウミ・ツキというのだから、多くの神を産んだ伊邪那岐・伊邪那美もまたウミツキであり、ムスヒ(産巣日)といえる。
ムスヒの音に魂の字を充てるのをよく見かけますが、島根県にある神魂神社は神魂と書いてカモスと呼び慣わしています。この名はカム・ムスヒが転じてカモスになったと見て良いでしょう。祭神は伊奘冉〔イザナミ〕大神です。
と、いうことで今回はここまで。有難う御座いました。《ヲグナ》