「十七世」

 

◇「十七世神」

*《古事記》上巻、大国主の条。

自八嶋士奴美神以下、遠津山岬帶神以前、稱十七世神。」

○八嶋士奴美神より以って下〔しも〕、遠津山岬帶神までを、十七世の神と稱〔ィ〕う。

 

*「十七世」とは、須佐之男命の子孫をいいます。須佐之男命は天照大御神の弟とされますが、同時に敵対勢力でもあります。にも関わらず、《記》では紙面を割いて紹介します。

《記》序では「前段・二」で、次のような変則的な書き様があります。一行ずつ読んで行くのではなく、二行全体で見ないと正しい解釈はできません。

 懸鏡 吐珠  而百王相續
 喫剣 切蛇  以萬神蕃息

天照大御神須佐之男命の件をいい、宇気比〔ウケヒ〕も含みます。(※薄字は天照の事)

※蕃息〔ハンソク〕は増え拡がることを言い、ここでは須佐之男の子孫の意。(「序」宇気比【解説・7】参照)

 

 

◇「系図

須佐之男命は八俣遠呂智を退治した後、櫛名田比賣を娶る。二人の間に生まれた八嶋士奴美神が嫡子になるが、この神から数えて末裔が十七代続くとしています。

 

《記》の記述。(☆漢字の羅列で見づらいです。)
須佐之男命)
故、其櫛名田比賣 以久美度邇起而
所生神 名謂八嶋士奴美神1
又娶大山津見神之女・名神大市比賣。
生子大年神。次宇迦之御魂神。二柱。

兄八嶋士奴美神、娶大山津見神之女・名木花知流比賣。生子布波能母遲久奴須奴神2)。此神、娶淤迦美神之女・名日河比賣。生子深淵之水夜禮花神3)。此神、娶天之都度閇知泥上神。生子淤美豆奴神4)。此神、娶布怒豆怒神之女・名布帝耳上神。生子天之冬衣神5)。此神、娶刺國大上神之女・名刺國若比賣。生子大國主神6)。亦名謂大穴牟遲神牟遲、亦名謂葦原色許男神色許、亦名謂八千矛神、亦名謂宇都志國玉神。幷有五名。

 

故、此大國主神、娶坐胸形奧津宮神多紀理毘賣命。
生子阿遲鉏高日子根神。次妹高比賣命。亦名下光比賣命。
此之阿遲鉏高日子根神者、今謂迦毛大御神者也。

大國主神、亦娶神屋楯比賣命。生子事代主神。亦娶八嶋牟遲能神之女・鳥耳神。生子鳥鳴海神7)。此神、娶日名照額田毘道男伊許知邇神。生子國忍富神8)。此神、娶葦那陀迦神。亦名八河江比賣。生子速甕之多氣佐波夜遲奴美神9)。此神、娶天之甕主神之女、前玉比賣。生子甕主日子神10)。此神、娶淤加美神之女・比那良志毘賣。生子多比理岐志麻流美神11)。此神、娶比比羅木之其花麻豆美神之女・活玉前玉比賣神。生子美呂浪神12)。此神、娶敷山主神之女、青沼馬沼押比賣。生子布忍富鳥鳴海神13)。此神、娶若盡女神。生子天日腹大科度美神14)。此神、娶天狹霧神之女、遠津待根神。生子遠津山岬多良斯神15)。
右件、自八嶋士奴美神以下、遠津山岬帶神以前。稱十七世神。

 

*あれ…? 十七世神としているのに、実数は15しか無い。数え間違い? 二人分の名を書き漏らした? 五の字を七と誤写?

確かに、こういったミスは《記》の文面の中で他でも見る事はあります。だから、“数字の書き間違いくらいは、大した問題ではない”、としましょう。

しかし、ここでの過ちは古事記ではなく、書写人でもなく、古事記を見る私達にある。「此神」の扱いを誤って解釈してしまっています。

 

 

◇「此神」とは

*上に示した系図は、全て直列に繋いだ解釈をしています。それは「此神」の対象者を、この表記の直前にある神としているからです。

ちょっと不自然さを感じます。多くの神の名が並びますが、重要な存在はただ二人、八嶋士奴美神と大国主神です。ならば「此神」は次のような位置付けにすべきではないでしょうか。

 

◇(須佐之男命)
 故 其櫛名田比賣
   以久美度邇起而 所生神
   名 謂八嶋士奴美神

  又娶 大山津見神之女。
   名 神大市比賣。
   生子大年神
   次 宇迦之御魂神。二柱。


 兄八嶋士奴美、      (1)
   娶 大山津見神之女
   名 木花知流比賣。
   生子布波能母遲久奴須奴神。  ①

 
   娶 淤迦美神之女
   名 日河比賣。
   生子深淵之水夜禮花神。    ②

 
   娶 天之都度閇知泥神
   生子淤美豆奴神。       ③

 
   娶 布怒豆怒神之女
   生名布帝耳上神。       ④
   子 天之冬衣神。

 
   娶 刺國大上神之女
   名 刺國若比賣。
   生子大國主神。        ⑤ 
     亦名謂大穴牟遲神
     亦名謂葦原色許男神
     亦名謂八千矛神
     亦名謂宇都志國玉神
     幷有五名。

 


 故此大國主、       (2)
   娶 坐胸形奧津宮神
     多紀理毘賣命。
   生子阿遲鉏高日子根神。    ① 
   次 妹高比賣命。
     亦名下光比賣命

 此之阿遲鉏高日子根神者
 今謂迦毛大御神者也。


 大國主
  亦娶 神屋楯比賣命。
   生子事代主神。        ②

  亦娶 八嶋牟遲能神之女
     鳥耳神。
   生子鳥鳴海神。        ③

 
   娶 日名照額田毘道男伊許知邇神
   生子國忍富神。        ④

 
   娶 葦那陀迦神
     亦名八河江比賣。
   生子速甕之多氣佐波夜遲奴美神。⑤

 
   娶 天之甕主神之女
     前玉比賣。
   生子甕主日子神。       ⑥

 
   娶 淤加美神之女
     比那良志毘賣。
   生子多比理岐志麻流美神。   ⑦

 
   娶 比比羅木之其花麻豆美神之女
     活玉前玉比賣神。
   生子美呂浪神。        ⑧

 
   娶 敷山主神之女
     青沼馬沼押比賣。
   生子布忍富鳥鳴海神。     ⑨

 
   娶 若盡女神。
   生子天日腹大科度美神。    ⑩

 
   娶 天狹霧神之女
     遠津待根神。
   生子遠津山岬多良斯神。    ⑪


右件、自八嶋士奴美神 以下、
   遠津山岬帶神 以前。
   稱十七世神。

 

◯ここに有る「此神」は八嶋士奴美神、また大国主神を示すものです。大国主神の場合、初めの阿遲鉏高日子根神の所では「此大国主神」と書き、2番目の事代主神・鳥耳神では「大国主神」と書きますが、3番目以降は「此神」と省略しているに過ぎない。

 

八嶋士奴美神には妻子5家族。その子・大國主神には妻子11家族(阿遲鉏高日子根神及び、その他の神)がいます。
八嶋士奴美神が。その妻子が大国主神の妻子が11
よって、「1+5+11=17」という数字になる。
つまり十七世とは、十七世代ではなく、十七世帯、を意味しているという事です。

 


◇直列「此神」

ここに示した系図では、(須佐之男命)─ 八嶋士奴美神 ─ 大国主神 ─ 阿遲鉏高日子根神。この家督継承は直列ですが、その他は並列に置かれる「異母兄弟」とすべきでしょう。※従来の解釈(全直列)では、大国主の総領である阿遲鉏高日子根神が、その列に入っていないのも、おかしな話です。

 

*是に依り、大国主神は、須佐之男命の六代末裔ではなく、須佐之男命の孫、ということになります。

すると、須佐之男命の女〔ムスメ〕須勢理毘賣と、孫の大国主神(葦原色許男、また大穴牟遲神)が駈落ちしても(時空間的条件に於いて)何ら不自然な事ではありません。

血縁的には叔母と甥ですが、コナミ須佐之男が古くに娶った妻)との間の孫(大穴牟遲)と、ウワナリ(最近に娶った妻)との間の女ムスメ(須勢理毘賣)とすれば、二人の年齢は近かったのでしょう。須勢理毘賣のほうが年下だった可能性さえある)

須佐之男命は記録上、少なくとも二人の妻(櫛名田比賣と神大市比賣。共に男子を生む)を娶っていますが、他にも妻がいたのでしょう。系図に記されるのは男子を産んだ妻のみであり、女子しかいない場合は記さない。

櫛名田比賣コナミ/古妻)のあと、何人目かの妻(ウワナリ/新妻)を娶ったのは、十五〜二十年くらい経ってからなのかも知れません。その妻との間に女子(須勢理毘賣)が生まれていたと考えられます。

 

*こうなってくると、あの天孫降臨というのが、天照大御神の孫(邇邇芸命)と、須佐之男命の孫(大国主神)の代での争い、という構図になります。俄然、現実味が増す話になってきました。

須佐之男命は数百年生きた、その娘(須世理毘賣)と六代あとの大国主(葦原色許男、大穴牟遲神とも云う)が結婚した、という何でも有りの神話的解釈をする必要も無くなります。

─  『天孫』とは。実のところ、勝った方が正義(天照大御神系)を名告り、負けた方が悪役(須佐之男命系)を押し付けられた、という事でしょうけどね。しかし、古事記は悪役であっても尊重し、書紀はそれを切り捨てる。 ─

 

 

▽ちなみに
十七という数には、また別の問題がありますが、それに関しては改めて機会を作りたいと思います。

 

・あぁ…、また長い文章になってしまった。ゴメン。