漢字の扱い「御」⑴

「御」という字

f:id:woguna:20230824150611j:image

◇「御」という

 現代の日本語での文字は、おん、の音で使われます。御名前なまえ〕、御召し物めしもの〕、御社やしろ〕。会社の場合は御社おんシャ〕
また御案内アンナイ〕、御馳走チソウ〕、御足労ソクロウ〕、御免メン〕…といった使い方をしますね。
御輿〔こし〕、御魂〔たま〕、御厨〔くりや〕、御手洗〔たらい〕などの御はと読みますが、これは現代の用法ではありません

和語に付く場合はになり、漢音読み単語にはの音になる事が多い。ただし、「御膳」はゼン、ゼン、と二様の読みをする例もあります。「ゴゼン」は食事、「おゼン」は食事を乗せる台であり意味も違ってきます。

或いは、台をいう「ゼン」という語、また御社〔おん・シャ〕の社〔シャ〕などは既に日本語化しているのかもしれません。

 

*装飾の「お」
頭に付くは、言葉を丁寧にするためと認識されていますが、そればかりでは無いでしょう。飾り音として、ただ乗せているだけ、というのも有ります。

おナカ(腹)、おシリ(尻)など、自分の体なのにを付ける。また、おイモ(芋)、おカラ(酒粕)、おマル(簡易便器)には要るか? 

これらは多くの場合、京都の公家ことば、宮中の女房ことばが、宮仕えの女性たちによって庶民にも広まったものでしょう。おカキ(かき餅)、おセン(煎餅)、おマン(饅頭)、おチリ(ちり紙)など、単語の後ろを省略して頭にを付ける表現もまた同様です。

これら頭のは言葉を柔らかくする効果が有るのかも知れません。ただ、これが丁寧語といえる程のものかというと、甚だ疑問です。

 

「お」が付き易い音
頭に付くはどんな語にも付着しますが、付き易い音がある様にも思います。

m音は唇で、k音は奧喉で、n音は先舌また唇で、それぞれ息を一旦遮断した後、これを開いて作り出す声なので、語頭にンの鼻音が付き易い。この(撥音)がに転じたのちにも変わります。

撥音は一般的に語中や語尾に付くものとされますが、古代また其れ以前の日本語では語頭につく事も珍しくはなかった。

コシ(輿)がミ・コシ(御輿)なるのはいいが、更に「ミコシ」になる、クジ(籤)がミ・クジ(御籤)なるのはいいが、「ミクジ」になる、是らのは不必要でしょう。

この現象はミの頭にンが付いて「ミコシ」「ミクジ」と発音し、このンがオに変わるのが原因ではないか。

この様な単なる勢い付けの付着音には漢字の「御」より仮名の「お」使うのが望ましいでしょう。

 

*この「御」は接頭語か?
記紀などでは、神や高貴な存在(王またそれに関連したモノ)に対して丁寧に云う時は頭にの音を乗せ、その音に御の字を使うと認識されているようです。

天之中主尊、高産巣日神、天照大神、建雷命、実豆良、身之禊、…など、これらの御は全ての音を持つ接頭語として扱われますね。

例えば、天之中主は、アメの・ナカヌシ、と読まれています。御は中主を丁寧にいう為のになります。他の名称の使い方も皆同じです。しかし、この扱い方は果たして正しいのか。

 

*多様な「御」
「御」の使い方については、地域、時代、部族の違いによるものが有ると思われ、上代に於いての用い方は一つでは無かったと考えられます。

例えば、
人、者、自身(人格)、身体(肉体)、などを表わす言葉にはキやミが使われます。通常はその音に、キ=岐伎、ミ=身見美、などの文字が充てられますが、重要な立場の者が対象になるとの文字も使われるのではないか。記紀からはそんな御が見えてきます。

よって、
天之御中主でいうと「天之・御中主〔アメノ・ナカヌシ〕」と切るのではなく、天をアキ、之をツ(またツ)とし…、

天之御アキツキ、またアキツミ〕・中主〔ナカヌシ〕

と読むのが、此の文字を最初に用いた人の意図ではなかったかと思う。

そして、
原音である「アキツキ・カツキ」(天之御・中主)とは、この世の質量全てを司る意思、謂わば「宇宙神」を、いうのでしょう。

 

 

▽ちなみに
アキツキ」とは主人、統率者、というのが基本的な意味です。一般的には、王、氏長、家長、など集団の規模に関わらず、リーダーを表わす普通名詞です。
アは大、キツキはモノ(者=生命体)の意。

古事記》では、大国主を淤富久邇奴斯〔オホクニヌシ〕と、歌などで假名書きされています。

 ア・キツキ→アハ・キナツキ→オホ・クニヌシ。

キツキの先のキが撥ねて、ツキ→キナツキといった膨張転化し、ツキがヌシに移る。
この音に意味に則した大国主の字が充てられたと思われます。