朕聞

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【 解説・17 】
《後段・一》(1~10/10)

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○朕〔われ〕、聞いてる所では、各家々が持っている帝紀や本辞は其の内容に於いて、真実と異なっていたり偽りも多く加わっているという。

今その誤りを改めておかなければ、何年も経たないうちに正しい旨が判らなくなり滅んでしまうだろう。すなわち、国家の成り立ち、正しい天子の血統の日継ぎ。

これ故、考えるのだが。(正しい)帝紀を選び記録し、旧辞(昔の出来事を伝えた話)を訪ね極め、偽りを取り除き真実を明らかにして、後の世に伝え送りたいと思う。


朕聞]◯朕/天子の自称。◯聞/キキ・ツルに。聞くには。耳にする情報。(棚字)

諸家之所賷]◯諸家/地域の豪族。部族の長〔おさ〕。◯之/コレ。◯所賷/モチアル。モチャル。所持しいる。[帝紀及本辭]◯帝紀/王族に関する文章。年表や系図。◯及/マタ。◯本辭/旧辞。クヂ。フルゴト。伝承話や昔話、これらの書き物。

既違正實]◯既/スデに。◯違/タガイ。誤り。◯正實/實=実。マツ・コト。まこと。真実。[多加虛僞]◯多加/サワニ・クァアリ。多く加わる。◯虛僞/キツ・アリ。イツワリ。間違い。誤り。

當今之時]◯當/=当。アタリ。際して。◯今之時/イマ・コノ・トキ。[不改其失]◯不改/アラタメズ。◯其失/ソノ・アヤマリ。過失。

未經幾年]◯未/イマダ~アラズ。◯經/ヘル。経過。◯幾年/イクトセ。数年。[其旨欲滅]◯其旨/ソノ・ムネ。内容。◯欲滅/ホロビ・ナム(だろう)とオモホス
斯乃]コレ・スナワチ。(棚字)
邦家之經緯]◯邦家/ホウカ。大王が治める国。我が国。◯之經緯/コレ・ケイイ。道すじ。いきさつ。成り立ちと歴史。[王化之鴻基]◯王化/君主の徳の感化。◯之鴻基/コレ・コウキ。チスヂ。鴻緒(天子の血筋)鴻は大、基は礎〔いしずえ〕。日本語では経緯〔みちすじ〕・鴻基〔ちすじ〕と韻を踏む。正しい王家(皇室)の血統継承。

崇神紀七年春二月に「昔我皇祖、大啓鴻基」〈昔、我が皇祖、鴻基〔ひつぎ〕を啓〔ひろ〕めたまいき〉とあり、ここでの鴻基はヒツギの読みを充てています。

焉故惟]◯焉/コレ。ここに。◯故/ユヱに。◯惟/オモフ。思う。おもんみる。考える。◇先の主要文(七行)と後の締め句(二行)を分ける三文字からなる一行。

撰錄帝紀]◯撰錄/エラビ・シルシ。◯帝紀/王家の事柄。系図。[討覈舊辭]◯討覈/事実を調べて明らかにすること。◯討/尋ね、調査。◯覈/調べる。見極める。◯舊辭/=旧辞。伝承話。古物語。◇旧辞の読み方として、古い話そのものはフルコト(古言)、文字に記した物は漢音でクヂと呼び分ける。

削僞定實]◯削/ケズリ。◯僞/イツワリ。間違い。◯定實/實=実。マコトをサダメ。真実を確かにし、正しく定める。

◇削の字は、かつて木簡に書かれた文字を改めるとき表面を削ったところから、消すことをケヅリまたハツリと表現します。

欲流後葉]◯欲/ナサントス。~したい。◯流/ツツイ。伝い。伝え。◇「流」の字の訓読みはツツ(またその転化音、ルルなど)ともいいました。そして「伝え」という語もまたツツキが原音です。よって、流の字をツツヘ(ツタエ)と読むことに何の不自然さも有りません。

◯後葉/後の世。未来に。◇世の字の代わりに葉を使っています。世・葉ともにヨウ(ヤウ)と発音すること、川の水面を漂い流れる葉のように世が移って行くこと、などに掛けた風流表現。

 

▽ちなみに。「世」の字は「カ(ka)」が元の音だったと推測できます。葉はカ→ハに、またカ→キァ→キァウ→イァウ→ヤウ(ヨウ)と音転します。さらにキァウが、→チァウ(チョウ)の音に移ると、蝶、諜、などの音読みになりますね。皆、世の字が入っています。

亦、ちなみに。虫は、蚊、蛾、など大体「カ」なので、蝶もカだったのでしょう。蝿もカ→カイ→ハイ→ハエ、と移りますし、音読みはヨウです。

 


…《後段・一》ヲグナ。