付記・2

【 解説・23 】
《後段・五/ⅱ》(6〜10/10)

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○即ち、言葉の意味がよく分からない語は、注釈を入れて説明をしておく。語意が容易に理解できるものは、殊更に取り立てて説明はしない。

また、姓〔カバネ〕などにある「日下」をクサカといい、名前に使われる「帯」の字をタラシという。この様な既に定着している因習的表記の類は資料本(巻物など)のまま使い、敢えて別の文字による訓書きや音書きに替えたりはしない。

 

]スナワチ。(棚字)[辭理叵見]◯辭/辭=辞。コト。言葉。◯理/コトワリ。意味。◯叵見/叵=難。ミエ・ カタキ。はっきりしない。よく分からない。[以注明]◯以/モチテ。◯注/シメシ。注釈。◯明/アキラカ。はっきり。説明。

意況易解]◯意況/ココロ・イワレ。言葉の意や文の内容、また意図するところ。◯易/ヤスキ。容易。◯解/トキ。分かる。理解。[更非注]◯更/サラに。あらためて。◯非注/シメサズ。説明はしない。

◇二行(6、7)を一対として、辞と意、理と況、叵と易、見と解、などの(同義反義)文字を隣り合わせに並べ、ここでも視覚遊びをしている。
一部の解説書に見かける「以注明意」〈注を以って意を明らかに〉の解釈は当たらないのが分かる。

 

 

]マタ。或いは。その他に。(棚字)
◇マタには亦と又があり、亦名、又娶、といった使い方をします。

  • 「亦」は、⑴ 或はまた。同時・並列。⑵ 再度。繰り返し。
  • 「又」は、更にまた。順次・直列。

亦娶などと書くのも見掛けますが、これは同時に複数の妻を娶った場合の表記であり、概ね用法は定まっています。

◇後段の棚字は全て意味を伴って置かれており、前段との違いは明瞭ですね。

於姓日下]◯於姓/カバネの。カバネにオケル。◯日下/クサカ。生駒山の西側山裾、中河内の地。[謂玖沙訶]◯謂/イイ。言う。◯玖沙訶/クサカ。音書き。真仮名表記。※クサの元の音はキツ。

◇クサカの音は、クサ・カムラ(村)、クサ・カヤマ(山)などから始まり、ここから村はムラ、山はヤマの音のみになります。

その結果、これらの音(ムラやヤマ)を切り離した「クサ・カ」が、後に地域名となります。さらにその地名から姓〔カバネ〕の名や氏〔ウヂ〕の名として用いられるようになっていきます。

▽ちなみに。日下や草迦が湯桶読み(くさ・カ)になっているのは、カの音を持つ文字(下、迦)を後から差し込んだ事によるものです。明日香村〔あす・カむら〕の香の字も同様です。

於名帶字]◯於名/ナの。ナにオケル。◯帶字/タラシのジ(ヂ)。[謂多羅斯]◯謂/イイ。◯多羅斯/タラシの真仮名。◇タラシの音には足の字もよく使われます。ツツキ(王が住まいする地)からの転音か。

◇帯〔おび〕を前で結んで、余ったのをそのまま下ろす「垂らしの帯」から、帯をタラシと云うようになったのでしょう。(京の舞妓は後ろで結んだダラリの帯。タラシとダラリは転化の違いであって元の音は同じである)

如此之類]◯如/ゴトキ。◯此/コノ。◯之類/コレ・タグイ。「此の類」とは因習表記としての充て字類をいう。

隨本不改]◯隨/マニマニ。そのまま。従来通り。◯本/マキ(巻物)。資料本。本の字をモトと読む場合、何を指してモトというのが見えない。◯不改/アラタメズ。変えない。

◇文字と読みの音とが直接の繋がりは無くとも、或いは今の読みには無い音であっても、その資料に有る文字のまま用いることとし改めない。

また、神名人名に関しても古くから表記文字として使われ定着している場合、勝手に変えたりせずそのまま使う。ここが、書紀との基本姿勢の違いです。

《後段・五/ⅱ》(6〜10/10)完。

 

◇《記・序》終了。「古事記 上卷 幷序」の表題後、臣安萬侶言で始まりました名目の「序」は、この範囲(後段五)までです。次にある書目及び署名は、上巻の附録であり「序」には含まれません。