記編纂

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【 解説・20 】

《後段・四/ⅰ》(1〜5/9)f:id:woguna:20210910130240j:image

旧辞に多くの誤りが有ることを惜しみ。また先紀の記述に間違いが混ざっているのを訂正する。
ここに、和銅四年九月十八日を以って詔。
安萬侶、選りつつ文字化収録。稗田阿禮、語りし。


於焉]ココニ。「詔」に係る。(棚字)[惜舊辭之]◯惜/オシミ。◯舊辭之/フルコトの。またクヂ。伝承話。旧辞の読みとしてフルゴト(古言)とクヂ(書き物)があるが、ここではフルゴトと読む。[誤忤]タガエ。錯誤。◯誤/アヤマリ。◯忤/タガエ。さからう。

正先紀之]◯正/タダシ。糺。◯先紀/サキツフミ。文字資料。先世(歴代)の帝紀。帝皇日嗣。王家の系図。[謬錯]ミダレ。◯謬/あやまり。◯錯/間違いが混ざる。

◇前段三(記本文に関する記述の末部)では「稽古以繩 風猷於既頽 照今以補 典教於欲絶」といい、また後段一(国史編纂を命ずる理由)では「既違正實 多加虛僞  …  削僞定實 欲流後葉」と書くなど、同じような表現が繰り返し使われます。この事は各段落が別々に書かれたことを窺わせます。

恐らく、国史作りの号令が為される毎に使われる常套句だったのでしょう。

和銅四年九月十八日詔]◯以・詔/モチテ・ミコトノリ。◇詔の字について。日付の末尾にその時の行為を示す文字を置くのは、当時にあって通常の形です。また、以詔の二文字で対象となる語(ここでは日付)を挟む、この用法もよく見ます。

よって、詔の字をこの後に続く安萬侶の頭に置いて「詔臣安萬侶」〈ヤスマロに対してミコトノリ〉という扱い方を、本稿では採りません。

和銅四年/ワドウ・ヨツトシ(七一一年)。和銅は音読み。◯九月/ナガツキ。またココノツキ。◯十八日/トウ・マリ・ヨウカ。原音は、ツツ・アマリ・ヤツカ。

◇数の十は古語でツツといい、ツツ→トト→トオ(トウ)と転じます。端数をアマリ(縮んでマリ)という。八はヤツ(ィアツ)ですが、ヤツ→ヤウ→ヨウと移る。日(day)はカです。故に、八日はヤウカ、またヨウカの音になります。

臣安萬侶]〈名告り〉の項、参照。[撰錄]ヨリ・シルシ。◯撰/ヨリ。選別。◯錄/シルシ。収録。[稗田阿禮]後段二、参照。[所誦]ノリシ。声に出して唱え繰〔く〕りつづる。

◇阿禮の話言葉〔はなし・ことば〕をそのまま音書き(仮名字)にすべきか、訓書き(表意文字)にするのがよいのか、そんな葛藤もあったに違いありません。

※〈音書き〉:漢字を音記号としてのみ使用。
〈訓書き〉:漢音、ヤマト語音、共に意義持ち字。

例えば「汝身者、如何成」や「然善」は訓書き(者の字以外)であり、意味は推し測れますが、どのように読めばよいのか悩ましいです。

一方「阿那邇夜志 愛袁登古袁」は音書きなので、「アナニヤシ、ヱヲトコヲ」とハッキリ読めます。ただ、アナニヤシの意味が分からない。

登場人物のセリフであっても、統一が為されている訳ではなく、その時どきによって変わっています。

いや、安萬侶さんの心情、お察しします。

 

《後段・四/ⅰ》(1〜5/9) ヲグナ。